旅館の繁盛、もてなし一つから
ある旅館の話をしよう。
長い歴史を持つ温泉郷の一角だが決して高級な宿ではない。グレードは
平均的で設備も特別ではない。にもかかわらずリピーターが続々とやっ
て来る。旅館紹介の大手サイトでは、おもてなし満足度で東日本一にも
選ばれている。人もうらやむ繁盛ぶりだが、実はほんの数年前まで経営
難に陥っていた。大きな理由の一つは設備の古さだ。当時の写真を見る
と確かに雰囲気も古くさく、露天風呂もない。そのころ、「当日夕方四
時のキャンセル電話」がしばしばあったという。予約客が外観を見た瞬
間、別の旅館に変更してしまったのだと思われる。それほどハードが弱
かったが、内外装をしようにも資金がない。まさに悪循環。売上はピー
クの4割も落ち込んでいた。この旅館、そのような深刻な状況から一転
してV字回復を遂げたのである。今日では売上も当時の三倍近く
になり経営も安定している。経営者が行ったことは、接客サービスの見
直しだった。それしか手立てがなかったとも言えるが、ハード面で見劣
りするぶんソフトで補おうという考えで、徹底的に見直した。このもく
ろみは成功し、次第にリピーターが増え、客数が増え、業績が持ち直し
た。お客さんを惹き付けたのは設備ではなく、サービスの魅力だ。弱い
ハードでもソフトを見直すことで業績を立て直す事ができるのである。
社長は「サービスの何を見直したか覚えてないほどすべてを見直した。
しかし特別な仕掛けはしていない」という小さなしかし大切な基本を一
つひとつ充実させるが、業績という大きなものを動かす。
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2007.9.26 日経MJ「招客招福の法則」よりvol.164