No21 春一番の食べ物 2010年4月6日(火)
わが家で「春一番」を感じる食べ物は、アカハラの刺し身です。川の氷が解けるとすぐに、産卵のため河口から上流を目指す春が旬の川魚。体に十分な栄養を蓄えたアカハラを、釣ったその日のうちにさばいて食べるのです。
アカハラとはウグイの別名で、アイヌの言葉でもスプン(赤い腹)と呼ばれています。普段は銀色の魚体ですが、産卵期になるとおなかに赤いしま模様が入るのでそう呼ばれています。
アカハラには2種類あり、口が丸く3本のしまが入ったウグイと、口先がとがって、しまが1本のマルタウグイがいます。ウグイの方が骨が少し細く、私にはおいしい気がします。
小骨が多いためか、道内では、ほとんど食べられていません。本州の一部では川魚料理の名物となっていますが、道内は海の魚が豊富なので、多くの地域で川魚料理の文化がなかったのが大きな原因ではないでしょうか。
わが家でアカハラを食べるようになったのは、私の祖父の影響があります。祖父が入植者として屯田兵とともに湧別川流域に住んだ時代は、魚は自分で捕って食べる以外になく、アカハラも大切な食料だったと教えてくれました。春になると「流し針」という仕掛けで捕り、刺し身やぬたとして食べたり、焼き干しにして、そばやうどんのだしにしたりしたそうです。小骨が多い魚なので、できるだけ薄く、透けるくらいに切るのが刺し身のこつです。白身で上品な脂がのっていて、コリコリとした歯応えは絶品。釣りの帰りがけに採った山ワサビをすり下ろして入れたしょうゆで、温かいごはんと一緒に食べると、最高においしく「春だ!」と思わず叫びたくなります。
*つぶやき*
これがアカハラ。湧別川では河口付近の工事の影響で水深が浅くなり釣り場がなくなった。河口のアカハラのポイントにはオジロワシやオオワシが周りの木に群れていたものだ。昔は堤防によくあったわさび(実は外来植物)もあまり無くなり、春の食べ物も簡単には獲れなくなった
No22 カゲロウな釣り人生 2010年6月25日(金)
長い冬が終わり雪解け水が落ち着くと、待ちに待った川釣りシーズンが到来する。今年のように気温が上がらず雪解けが遅れると、釣り人にとって大切な期間が短くなるので「早く水がきれいにならないか」と仕事の行き帰りに川面を見ては気をもんでいる。
私がよく釣りに行く湧別川には昆虫のカゲロウが多く生息する。川の生態系の中ですべての魚たちの餌として重要な位置を占めていて、羽化した成虫が水面に浮かび上がる時が最も盛んに捕食される。
カゲロウの羽化は、日が暮れてほとんど薄暗くなりかけてから。釣り人たちにとっても夕方が最高の釣り時間となり、私は夕食を食べてからゆっくりと川に向かうときもある。
さあ、戦闘開始。フライフィッシングの疑似餌はもちろんカゲロウに似せている。水面を跳ねている魚に向かってさおを流すが、いつもうまく食いつくとは限らない。途中で疑似餌を交換する時は、薄暗い中で釣り針に糸を通すので老眼の私にはかなり難しく、焦って血圧が上がってしまう。
水面ばかり見つめていて、ふと気付けば周りは真っ暗闇というのは珍しくない。森の暗さを改めて実感し、帰り道にクマと遭わないかと怖くなり、どきどきしながら急ぎ足になる。
カゲロウは成虫になってからの寿命が短く、はかないものに例えられる。私にとってもこの釣りは「心臓に良くない。寿命が縮むな」と感じる。妻には「そこまでしなくてもいいんじゃない」と言われるが、やっぱりやめられない。
*つぶやき*
夕暮れ時のムリダムでただ今ニジマスとのファイト中。ダムは水量が増減し真ん中ほど浅い。
気がつくと岸際が胸の高さより深くなり、胴長靴の中に水が入り必死で岸にたどり着いたことが何回もある。しかし魚が跳ねているとどうしても前へ・前へと進んでしまうのは釣り人のオバカな習性である!
No23 ヤツメでナイト 2010年9月10日(金)
湧別川には初秋になると海からヤツメウナギが産卵のために上ってきます。ビタミンAの含有量が多く、古くから目の病に効く薬用として珍重されてきました。
ただ最近は環境変化の影響なのか、数が少なく、大きさも小ぶりになり、食用のヤツメウナギを捕まえるのは大変になっています。夜行性のため、漁は暗くなってから川の水深の浅い場所で行います。道具を使うのは禁止されているので、ぬるぬるしている体を手づかみするには軍手が欠かせません。
真っ暗闇の川の中に立っていると、はじめは周りがまったく見えなくて不安ですが、だんだんと目が慣れてきます。今と違って、太古の昔の夜はこんなものか、と不思議な感覚になります。
翌日の夜は、料理の時間です。ヤツメウナギには背骨がなく、背割りにするのはウナギより簡単。さっと湯引きして皮をむき、下ごしらえをして、かば焼き用のたれにひと晩漬け込みます。
そして3日目の夜は友だちと宴会。「どうも最近は目が弱っていかん」とか言いながら、酒飲みが集まってきます。かば焼きのほか鍋や空揚げもとても好評です。気が付くと酔いが回ったみんなの目はうつろ。ヤツメウナギは果たして効いているのか気になります。こうして「ヤツメでナイト」は三日三晩に及ぶのです。
*つぶやき*
この怪しげにぬるぬると光る物が食べ物だと思える人は数少ない。実はヤツメウナギは魚類ではない。なぜなら脊椎(骨)がない。ウナギには骨がある。そんな事はおかまいなしに私は蒲焼きを想像し、よだれが出る。やっぱりあぶない!!