ヤツメでナイト
湧別川には、初秋になると海からヤツメウナギが産卵の為に上がってきます。ビタミンAの含有量が多く、古くから目の病に効く薬用として珍重されてきました。
ただ最近は環境変化の影響なのか、数が少なく、大きさも小ぶりになり、食用のヤツメウナギを捕まえるのは大変になっています。
夜行性の為、漁は暗くなってから川の水深の浅い場所で、行います。道具を使うのは禁止されているので、ぬるぬるしている体を手づかみするには軍手が欠かせません。
真っ暗闇の川の中に立っていると、はじめは周りがまったく見えなくて不安ですが、だんだんと目が慣れてきます。今と違って、太古の昔の夜はこんなものか、と不思議な感覚になります。
翌日の夜は、料理の時間です。ヤツメウナギには、背骨がなく、背割りにするのはウナギより簡単。さっと湯引きして皮をむき、下ごしらえをして、かば焼用のたれにひと晩漬け込みます。
そして3日目の夜は友達と宴会。「どうも最近は目が弱っていかん」とか良いながら、酒飲みが集まってきます。かば焼のほか、柳川鍋風にしたり、空揚げにしたりしても、とても好評です。気が付くと、酔いが回ったみんなの目はうつろ。ヤツメウナギは果たして効いているのか気になります。
こうして楽しい「ヤツメでナイト」は三日三晩に及ぶのです。
http://huat.jp/masatoshi/no/37
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2010年9月10日北海道新聞「ときわぎ」に掲載されました。
今月のコラムです
カゲロウな釣り人たち 6月25日(金)北海道新聞オホーツク覧 コラム(ときわぎ)
長い冬が終わり雪解け水が落ち着くと、待ちに待った川釣りシーズンが到来する。今年は雪解けが遅く、「早く水がきれいにならないか」と仕事の行き帰りに川面を見ては気をもんでいたが、6月に入りニジマス釣りが本格化してきた。私がよく釣りに行く湧別川にはカゲロウが多く生息する。川の生態系の中で魚たちの餌として重要な位置を占める昆虫で、羽化した成虫が水面に浮かび上がる時が最も盛んに捕食される。カゲロウが羽化するのは、日が暮れてほとんど薄暗くなりかけてから。釣り人たちにとっても夕方が最高の釣り時間となり、私は夕食を食べてからゆっくりと川に向かうときもある。さあ、戦闘開始。フライフィッシングの疑似餌はもちろんカゲロウに似せている。水面を跳ねている魚に向かって釣り針を流すが、いつもうまく食いつくとは限らない。途中で疑似餌を交換する時は、薄暗い中で釣り針に糸を通すので老眼の私にはかなり難しく、焦って血圧が上がってしまう。水面ばかり見つめていて、ふと気づけば周りは真っ暗闇というのは珍しくない。
森の暗さを改めて実感し、帰り道にクマと遭わないかと怖くなり、どきどきしながら急ぎ足になる。カゲロウは成虫になってからの寿命が短く、はかないものに例えられる。私にとってもこの釣りは「心臓に良くない。寿命が縮むな」と感じる。妻には「そこまでしなくてもいいんじゃない」と言われるが、やっばりやめられない。
「春一番」のたべもの
我が家で「春一番」を感じる食べ物は、アカハラの刺身です。川の氷が解けるとすぐに、産卵の為河口から上流を目指す春が旬の川魚。体に十分な栄養を蓄えたアカハラを、釣ったその日のうちにさばいて、食べるのです。アカハラとはウグイの別名で、アイヌの言葉でもスプン(赤い腹)と呼ばれています。アカハラには2種類あり、口が丸く3本のしま入ったウグイと、口先がとがって、しまが1本のマルタウグイがいます。ウグイの方が骨が少し細く、私にはおいしい気がします。小骨が多いためか、道内では、ほとんど食べられていません。本州の一部では川魚料理の名物となっていますが、道内は海の魚が豊富なので、多くの地域で川魚料理の文化がなかったのが、大きな原因ではないでしょうか。我が家でアカハラを食べるようになったのは、私の祖父の影響があります。祖父が入植者として屯田兵と共に湧別川流域に住んだ時代は、魚は自分で捕って食べる意外になく、アカハラも大切な食料だったと教えてくれました。春になると、「流し針」という仕掛けで捕り、刺身やぬたとして食べたり、焼き干しにして、そばやうどんのだしにしたりしたそうです。小骨が多い魚なので、出来るだけ薄く、透けるくらいに、切るのが刺し身のこつです。白身で上品な脂がのっていて、コリコリとした歯ごたえは絶品。釣りの帰りがけに採った山わさびをすり下ろして入れた醤油で、温かいごはんと一緒に食べると、最高においしく「春だ!」と思わず叫びたくなります。
2010/4/6北海道新聞・・ときわぎ「春一番の食べ物」 渡辺 政俊