「春一番」のたべもの
我が家で「春一番」を感じる食べ物は、アカハラの刺身です。川の氷が解けるとすぐに、産卵の為河口から上流を目指す春が旬の川魚。体に十分な栄養を蓄えたアカハラを、釣ったその日のうちにさばいて、食べるのです。アカハラとはウグイの別名で、アイヌの言葉でもスプン(赤い腹)と呼ばれています。アカハラには2種類あり、口が丸く3本のしま入ったウグイと、口先がとがって、しまが1本のマルタウグイがいます。ウグイの方が骨が少し細く、私にはおいしい気がします。小骨が多いためか、道内では、ほとんど食べられていません。本州の一部では川魚料理の名物となっていますが、道内は海の魚が豊富なので、多くの地域で川魚料理の文化がなかったのが、大きな原因ではないでしょうか。我が家でアカハラを食べるようになったのは、私の祖父の影響があります。祖父が入植者として屯田兵と共に湧別川流域に住んだ時代は、魚は自分で捕って食べる意外になく、アカハラも大切な食料だったと教えてくれました。春になると、「流し針」という仕掛けで捕り、刺身やぬたとして食べたり、焼き干しにして、そばやうどんのだしにしたりしたそうです。小骨が多い魚なので、出来るだけ薄く、透けるくらいに、切るのが刺し身のこつです。白身で上品な脂がのっていて、コリコリとした歯ごたえは絶品。釣りの帰りがけに採った山わさびをすり下ろして入れた醤油で、温かいごはんと一緒に食べると、最高においしく「春だ!」と思わず叫びたくなります。
2010/4/6北海道新聞・・ときわぎ「春一番の食べ物」 渡辺 政俊