平成24年早春号
彼岸のお話・・「ゆるす心」
人間は子離れ親離れが苦手な生き物であると言えます。
お経にこんな話があります。
「昔一人の信仰の深い青年がいました。父が死んで、母親と共に
親一人子一人の幸せな新しい生活を送っていましたが、新たに、
嫁を迎えて3人暮らしとなりました。
はじめは仲が良く平和な家庭でありましたが、ふとした事か
ら姑との心の行き違いが起こり、波風が立つと、容易には収まらず
、ついに母は若い二人を残し、家を離れる事となりました。
母が別居すると、やがて若い嫁に男の子が生まれました。「姑と
一緒にいる間はめでたい事もなかったが、別居するとこうしてめで
たい事が出来た」と嫁が言ったという噂が、寂しい一人暮らしの姑
の耳に入ってしまいました。姑は腹を立てて叫びました。「世の中
には正しい事がなくなった。母を追い出して、それでめでたい事が
あるなら世は逆さまだ」姑は「この上は、正しさという主張を葬り
さらねば」と喚き立て、気がふれた様に墓場に出かけた。
この事を知ったインドラという神は、姑の前に現れて、色々諭した
が、姑の角は折れません。インドラ神はついに「それではお前の気が
済む様に、憎い嫁と孫を焼き殺してやろう。それでよいな」と言った
のです。この言葉に驚いた姑は自分の間違っていた心の罪をわびて、
嫁と孫の助命を願いました。息子と嫁もまた、この時には今迄の心得
違いを反省し、母を訪ねてこの墓場に来る途中でありました。インドラ
神は和解させ、平和な家庭に帰らせました。
仏の教えがなくなるのは、教えそのものがなくなるのではなく、その人
の心の正しさが失われるからであります。
心と心の食い違いは、誠に恐ろしい不幸をもたらすものであります。
わずかの誤解も、ついには大きな災いとなります。家庭の生活におい
て、特に注意しなければなりません。「本生経」というお話です。
煩悩や欲望に満ちた「この岸(此岸)から迷いのない安楽の「かの岸(彼岸)
に皆で渡りましょうというのがお彼岸であります。
それには「赦す(ゆるす)心」が大切です。自分も周りに大なり小なりの
迷惑をかけながら生きています。だから自らも周りを「赦す」のです。
心豊かになるひとつの方法ではないでしょうか。